子供にとって、最も嬉しいことは「親に認めてもらうこと」です。
「五体不満足」という著書で有名な乙武洋匡(おとたけひろただ)さんをご存じですか?
乙武さんが生まれたとき、手足のない我が子を見たお母さんの第一声は「かわいい!」だったそうです。
この瞬間に、乙武さんの人生は決まりました。
「手足がない、かわいそうな子供」ではなく、「そんなことは関係無しに人から愛される子供」として認められたのです。
例え勉強をしなかったり、いたずらをしても、子供のありのままを認めてあげることができるのは、親だけです。
そして、ありのままの自分を認めて、受け止めてくれる人がいる子供は、自己肯定感を持って、何にでも前向きに、積極的に取り組めるようになります。
子供がテストで悪い点数をとったときに、「お前は頭が悪いね」とか「お前は勉強をしないからダメなんだ」と伝えれば、子供の脳には「自分はダメなんだ」「自分は認められていない」という情報がインプットされ、さらに勉強に手がつかなくなります。
テストの点数など関係なく「お前のことが好きだよ」「お前はよい大人になるよ」と伝えれば、そのような暗示を受けて、人から愛される、自己肯定感を持った子供が育ちます。そして、好きなことに一生懸命取り組むようになるでしょう。
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でも、そうしたことを理解していたとしても、目の前の子供が、一生懸命育てているのに言うことを聞かなかったり、勉強をしなかったり、悪いことばかりしていれば、そのような子供の状態を受け入れるのは、実際には簡単なことではないかもしれません。
ここでは、子供のありのままを認めて、受け入れるためのポイントを幾つか紹介します。
①周りと比較しない
周りと比較をすると、どうしても、他の子供はこんなに出来ているのに、どうしてこの子はこんなこともできないのか?と思ってしまうことが出てきますよね。
でも、人によって成長の仕方はそれぞれ異なります。
ウサギとカメの例のように、ゆっくり成長する人や、遠回りをする道が必ずしも悪い訳ではありません。
塞翁が馬(さいおうがうま)ということわざがありますが、知らない方は検索をして調べてみてください。簡単に説明すると、一見、よくないと思うようなことが後で幸運をもたらしたり、逆によいと思うようなことが後で不運をもたらすなど、「何がよいことかどうかは後になってみないと分からない」ということです。
子供のことが心配になるようなことがあったとしても、親が心に余裕を持って「これでいいんだ」「今のままで大丈夫」「毎日、元気で過ごしてくれているのが嬉しい」「この子はきっと上手くいく」「今のこの子には、この方法が合っているんだ」というように思って、見守ってあげることが大切です。
子供は、自分に対する空気感を敏感に感じ取ります。親や先生が子供に対して不安を感じるのではなく、「今のままで大丈夫だよ」と認めてあげることができれば、そうした自分のことを信じてくれる人、無条件で自分を肯定してくれる人がいる子供は、とても強くなれます。
②子供をすぐに変えようとしない
子供の出来ていないところをすぐに変えようとすれば、口うるさく注意をすることになります。
でも、注意しても子供は変わりません。
自我を持った思春期の子供なのだから、それが普通です。
子供が変わるには、時間がかかって当たり前なのです。
子供がすぐに変わることを期待せずに、少し離れた所から見守ってあげ、出来ている部分や成功体験を認めることに注力することで、いつの間にか、成長して今まで出来ていなかった部分もできるようになるということが起きます。
「今すぐ変わってほしい!」という気持ちもわかりますが、一度深呼吸をして、子供たちが成長する時間を待ってあげられるとよいですね。
③注意をするときには、禁止・否定ではなく肯定の声がけをする
子供は注意しても変わらない、子供のありのままを認めることが大切ということを書きましたが、それでも子供を注意した方がよいときがあると思います。
忘れ物が多かったり、遅刻が多かったり、兄弟をいじめてばかりだったり、全く勉強をせずにゲームばかりしていたりなどの場合、やはり注意して導いてあげたほうがよいですよね。
でも、注意をしても、子供は変わりません。
そんなときには、禁止や否定の注意をするのではなく、肯定の声がけをすることを意識してください。
例えば、子供が毎日忘れ物してしまったときに、あなたならどのように声をかけますか?
ヒントは「イエス→バット法」です。
「イエス→バット法」とは、ネガティブなことをいったん認めた上で(いったんイエス)、でも(バット)こういう風に前向きに考えようと切り替える方法のことです。
「今日も忘れ物をしちゃったね、忘れ物をしたのなぜだろう?メモをとらなかったのが原因のようだから、次からはメモをとるようにすれば忘れ物をしなくなるよ。頑張ろうね。」
というように、ネガティブなことをポジティブに変えていくのです。
遅刻が多い子供に対しては、単に「遅刻をしないように」と言っても変わりません。なぜ遅刻をしたのかとその対策を考えて、最後は前向きにこうしようというように考えられるとよいでしょう。
ゲームばかりする子供に、ゲームを禁止しても、よりゲームをやりたいという気持ちが募るだけで、勉強をするようにはなりません。
それよりは、「勉強を1時間終えたらゲームを楽しもう」とか、楽しんで勉強できるために目標設定するなど、前向きに取り組めるような伝え方が効果的です。
④親自身が普段から物事をポジティブに捉える習慣をつくる
子供に対して、肯定の声がけが出来るようになるためには、親自身が普段から物事をポジティブに捉える習慣を持つことが大事です。
普段、自分自身がポジティブな考え方をしていないのに、子供に接するときだけポジティブな声がけをするのは難しいからです。
あるお母さんの話ですが、小さな子供2人と重い荷物を持って帰省するために、新幹線にやっと乗ってドアが閉まった後に、ホームに旅行かばんが1つ残っていたことに気付きました。
そんなとき、普通であれば「あー、どうしよう、荷物がないと困るし、もう取りに帰れないし」と慌ててしまいますよね。
そのとき、そのお母さんは「子供をホームに置き忘れないでよかった!」と言ったそうです。
もしそのお母さんが、その後「あー、かばんどうしよう」と慌てて心配そうな顔をずっとしていたり、「あなたがうるさいから気をとられてかばんを忘れたんだからね!静かにしなさい!」と子供に八つ当たりしたとしたら、子供はしばらくずっと、マイナスの気持ちになってしまいますよね。その状態からプラスの行動をとるのは難しくなります。そしてそういう気持ちが何度も続くと、どんどんマイナスの気持ちが募っていきます。
一方で、お母さんが、大変なことがあったとしても、前向きに過ごしているのを見れば、子供も、前向きな気持ちでいることができ、プラスの行動をとりやすくなります。
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もちろん、これはお母さんだけの話ではなく、お父さんも同じです。
普段から、何があったとしても、「よくない」と思えるようなことでも、ネガティブに捉えて落ち込むのではなく、イエス→バット→ポジティブを行うことで、親自身がポジティブに考えることを習慣化してください。
例えば、
・財布を落としたときには、→すごいショックだ!(イエスでいったんショックの感情を認める)→でも(バット)、これを機に落とし物をしない工夫を考えれば、これからもっと大事なものを落とすことがなくなるよい経験にすることができるかもしれない!これからもっとよいことが起きるかもしれない
・上司に怒られたときには、→悲しいし、ムカつく!(イエスでいったん落ち込む感情を認める)→でも(バット)、この悔しい気持ちをバネにして成長してやる!
というように、すべての身の回りの出来事をネガティブ→ポジティブに変えて考えることです。
いったん起きた過去のことは、どうやっても変えられません。変えられるのは、未来です。
起きたことをネガティブにとらえて終われば、マイナスの未来がやってきて、
ポジティブにとらえなおすことができれば、プラスの未来がやってきます。
⑤笑顔の力
子供のことを肯定するために、イエス→バット法で全てのネガティブをポジティブに変える習慣作りについて説明しましたが、その際に大切なことは、笑うことです。
人の表情や態度と、感情は密接に結びついています。
嫌なことがあってしかめっ面をしているときに、ポジティブな発想にはなりません。
そんなときには、まずは、気持ちを変えるよりも先に、表情を変えることです。
嫌なことがあって、前向きな気持ちになれないときでも、笑ってなんていられないようなときでも、とりあえず、形だけでよいので、口角をあげて笑ってみるのです。
形だけでも笑ってみることで、不思議と心もポジティブになりやすくなります。
楽しいときに笑うのは、誰でもできます。より大事なのは、嫌なことがあったときに、笑えるかどうかです。
楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる、ということを覚えてください。
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笑顔ほど、人を励まし、力づけるものはありません。
笑顔は、自分の気持ちも、周りの人の気持ちも明るくします。
子供にとっては、学校で嫌なことがあっても、帰宅したときに家族の笑顔を見たら安心して元気が出てポジティブな発想になれます。ポジティブの発想のときには、自己肯定感によって前向きに物事を取り組みやすくなります。
親が笑顔でいるだけで、子供は安心して、自分が認められていると感じることができるのです。
逆に怒りや不安、心配、ため息などは、自分の気持ちも、周りの人の気持ちをも暗くします。積極的に物事に取り組みにくくなります。そのような状態で一生懸命勉強や好きなことに取り組むのは難しいでしょう。場合によっては、他人をいじめたり、親が心配するような行動をよりとりやすくなってしまいます。
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まずは形からでよいので、何があっても口角をあげて笑ってみることをやってみてください。
例えば自分なりのルールとして、子供が宿題をやらなかったら、笑う、子供がいたずらをしたら、笑う、というような習慣を作るのもよいかもしれません。
⑥肩の力を抜く
素直な性格で、成績も優秀な子供であれば、ありのままを認めることは難しくないと思います。
でも、悩みがあってつい反抗的な態度をとってしまうような子供こそ、大人から認められることや肯定されることを必要としています。
では、どうすれば、そうした子供たちの可能性を信じて、認めることができるでしょうか?
ポイントは、大人も肩の力を抜いてみることです。
「この子供をきちんと育てなければならない」
「他人に迷惑をかけるような人になってはダメだ」
「他の子供はちゃんと出来ているのだから、この子ももっと出来るようにならないといけない」
「子供のうちに勉強をすることがこの子の将来のためになるんだ」
と真正面から真剣に考え、子供のために色々と注意をしても、残念ながら逆効果になってしまうことが多いです。
もう少し気楽に考えて、
「今のままで大丈夫」
「毎日、元気で過ごしてさえいればいい」
「この子はきっと上手くいく」
というように、少し心に余裕を持って子供に接することで、子供の自己肯定感は育まれていきます。
子供は、自分に対する空気感を敏感に感じ取ります。
大人が子供に対して不安を感じるのではなく、「今のままで大丈夫だよ」と認めてあげることができれば、そうした「自分のことを信じてくれる人」「無条件で自分を肯定してくれる人」がいることを感じた子供は、とても強くなれます。
そして、家族の中にそんな人がいてくれることに気付いた時は、子供たちもとても強いパワーを発揮してくれるでしょう。
子供のありのままを認めることの大切さを書きましたが、簡単にすぐにできることではないかもしれません。
親自身も急に変わろうとせず、少しずつでもよいですので、
・周りと比較しない
・子供をすぐに変えようとしない
・注意するときには、禁止・否定ではなく肯定の声がけをする
・親自身が普段から物事をポジティブに考える習慣を作る
・一緒にたくさん笑う
・肩の力を抜く
の6つを意識して、実践してみてください。
焦らなくても大丈夫です!
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